北朝鮮における食糧事情の推移とその要因

 t022187 渡部 慎

 

 

 現在 北朝鮮の食糧事情というと、「常に飢えの存在する国」という認識が一般的であろうかと思われる。その他にも「一部の人間に物資が集中し 庶民は困窮している」「首都 ピョンヤンは栄えているように見せかけているが その実 地方では多くの人間が飢えている」といったようなイメージがあるかと思われるが いずれも「飢え」という点を含んでいる。

 こうしたイメージはどこからきたのか、そういった点を踏まえながら北朝鮮の食糧事情の推移を見ていきたい。

 また、以下は数字から読み取った解釈であるため(裏づけとなる資料は存在するものの)ある程度の推測を含むことを予め明確にしておきたい。

 

 北朝鮮の食糧統計は、逐一公表されている訳ではない。しかし、FAO(国連食料農業機構)が世界各国の農業関連統計を体系的に整理しており、その中で、北朝鮮についての推計統計が掲載されている。

 この統計を活用することは、実態の分析というより、FAOの調査を後追いすることであるが、ここでは、北朝鮮の食糧需給の基本的状況を理解するため、FAOの統計を使って概観しようと思う。

 

 

 

食料生産の動向

 北朝鮮では、食料増産の努力が続けられ、穀物の生産量の推移で見る限り、'80年代から'90年代の始めにかけてそれなりの成果を収めている。

 しかし、1995年付近から 穀物の生産は軒並み下がっている。

これは1995年及び翌年の1996年の洪水、1997年における大規模な旱魃の発生により大幅な減産に陥ったためである。この時代の 北朝鮮の困窮は凄まじく、

相当数の餓死者も出たようである。我々が北朝鮮に対して持つ「飢えた」イメージは正しくここから来ていると言えよう。北朝鮮は かつて国際的な援助を得るため 自国の飢えたイメージを積極的にアピールしてきたが、その為に用いられた映像等の資料もこの時代のものと推測できる。

 また、1994年に金日成が死んだことにより 内外の反対勢力によって北朝鮮の体制転覆の策動がなされるかもしれない、という懸念から、経済の自由化は見送られ、軍と党の力は逆に強化されることになった。これにより1995年から2年連続で水害が発生しても、実は復旧に国力を挙げて取りかかる、という状況ではなかったことが想像できる。

 さらに、北朝鮮の農業が破壊されたのは、天災による要因だけではない。むしろ、毎年続けて作ると地力が奪われてしまうトウモロコシを毎年作ったり、山の木々をすべて削って農地にしため(山間部の棚田化)、災害に弱くなってしまった、という原因の方が大きい。

農業政策が根本から間違っていたのである。

 農業生産は、'90年代後半を通じて回復せず、これは決して一時的な災害によるものでなく、構造的な低収穫状況に陥っている事を証明している。

 こうした中で、ジャガイモ、小麦の生産を拡大しているが、これは稲作が困難となっている地域での対応であるかと思われる。

 

 

 

 食肉等についても、'80年代を通じて急速な増産が見られた。

 しかし、まず海産物の急激な減少が'90年代に入って始まっている。これは、ソ連邦崩壊後に見舞われたエネルギー危機等の影響を受けているものであろう。北朝鮮は、日本・韓国と並んで、海産物への依存の高い国であり、この減少は食糧事情に大きな影響を与えるものである。

 また、豚肉についても'92年から、減少しているが、やはりエネルギー危機等がもたらす多様な障害の中での現象であろう。

 さらに、'90年代半ば以降の減産は飼料作物の減産が大きく影響していることは明らかである。

 

 

 

ちなみに飼料作物消費の推移を見ると、'90年代始めまでトウモロコシの使用量が漸増していた。

 さらに'90年代の始めには米を利用しているが、これは'90年代始めの米の増産による余剰分の活用であろうか。

 

 

 

穀物需給の内訳

 穀物全体の供給について、'80年代には米の若干の輸出もあった。しかし全体の収支では、基本的には小麦の輸入が継続している(米・トウモロコシ・小麦それぞれの供給・消費の内訳については別掲)。

 また在庫調整では、基本的にはその積み増しを図ってきている。特に、'93年には国内流通量を減らしながらも大幅の在庫増を図っている。

 しかし、'95年以降の減産の中で、もはや積み増しは困難となってとおり、特に'96年には、在庫を大幅に減らしている。

 生産量の大幅の減少を輸入で補っているが、輸入可能量には外貨不足等から限界があり、結果として、'95以降は国内供給量は4百万トン台の低水準で推移している。

 

 

 穀物の国内消費の内訳としては、'80年代から'90年代始めを通じて総供給量の漸増の中で、飼料用消費が拡大を続けていた。

 しかし、穀物供給の大幅減少により、飼料用消費はほとんど削られ、現在では食料としての直接的な消費が大部分となっている。

 

 

 

一人当たり消費量

 以上のような食料供給・消費動向の結果、一人当たり食料消費量の推移では、米については、'80年代から増産分は輸出と在庫拡大に振り向けられけれ、直接消費量は漸減している。

 一方、トウモロコシについては'90年代始めまで、直接消費を拡大してきている。

 '90年代半ば以降は、米はさらに漸減傾向にあり、トウモロコシは減少に転じた。

これに対して、まず輸入した小麦で補填され、さらに'90年代末にはジャガイモによる補填も見られる。

 

 

食肉等の一人当たり消費量の推移は、基本的には生産の動向と対応している。

 '90年代始めまでは拡大を続けていたが、穀物の減産等からその生産が困難になり、消費量も大幅に減少している。

 

 

食料消費量をカロリーで見ると、'94年から大幅に減少し、現在は低水準横ばいで推移している。

 

 

 

一人当たり消費量の国際比較

 北朝鮮の一人当たり食糧消費量は、韓国に比して、穀物が89%となっており、さらに食肉については20%の低水準に留まっている。

 この結果、同じく、カロリーでは68%、蛋白では70%、脂肪では43%となっている

 

 

 

今後の推移

 「国際社会の支援と北朝鮮内部の生産を通じて、北朝鮮住民に対する一日の食糧配給量は215gで、昨年の200gに比べて好転したものの、北朝鮮当局は配給量を150gに縮める計画を建てた」戸いった事が伝えられていたが、配給制そのものが一時的に廃止されたそうである。勤労者の月平均賃金(100ウォン)で2キロのコメしか買えない現実を見ると 今年からの北朝鮮における食糧事情は絶望的かとも思われる。

 しかし一方でFAOWFPは、「昨年以来、農業生産の回復が続いており、今年の作物生産量は、一昨年よりかなり生産量の多かった昨年をやや上回った。」とも伝えている。

  生産の回復の要因は、良好な降雨があったこと、国際協力によって肥料と農薬が供給されたこと、必要な時期に種子が供給されたこと、政府が農業分野に重点を置いた資金等の投入を行ったことにあるかと思われる。

  しかし2001及び2002年の生産の回復にもかかわらず、国内生産量は、前述したように最低の必要量をなお大幅に下回っており、かつ、商業輸入が可能な量が限られていることから、同国は、外部からの大幅な食糧援助に再び依存せざるをえないと思われる。2002/2003年度の穀物不足量は、108万4千トンと見積もられており、商業輸入が10万トン、借入れによる輸入が30万トン、誓約された食糧援助が126千トンと見積もられるので、埋め合わせのできない不足量は558千トンと推計され、この量は、追加的な食糧援助と借入れによる輸入で埋め合わせる必要があると推測される。

 

 

参考資料

 

・国連食料農業機構(FAO

 

 

・国連食糧農業機関(FAO)日本事務所

 

 

 

・Join’s.com

http://japanese.joins.com/html/2002/0722/20020722143833500.html

 

・ソウル連合ニュース

http://www.infovlad.net/underground/asia/nkorea/july2001/0728200101.html